デンマークといえば、幸せな国ランキングで上位に入る常連。とはいえ、メンタルヘルスに悩む人がいないわけではありません。
「Quartz」によると、デンマークでは若者の10人に1人は孤独を感じているというデータがあり、うつに悩む人たちのためにある活動が行われています。
文化的な活動はメンタルヘルス向上に不可欠
それは、「Kulturvitaminer(英語では“culture vitamins”)」という活動。
うつに悩む人たちが集い、コンサートや美術館へ行ったりと文化的な活動をともにします。医者や専門家は直接には関わりませんが、トレーニングを受けた人が運営に携わります。
世界経済フォーラムの記事によると、人と一緒に活動することで心身に良い効果があるのだとか。
参加者からは、自分以外の外的な何かにフォーカスできること、同じ経験を持つ人たちと一緒にいることが回復へ役立っているという声があるそうです。
ビタミン(vitamin)という言葉は、「vital」(生命に必要な)+「amine」(窒素を含むアミン化合物)の2つの言葉の組み合わせでつくられた造語。
デンマークの「culture vitamins」は、わたしたちが食物から摂取するビタミンと同じように、文化的な活動も人が心身ともに健康で暮らすために不可欠であることを表したネーミングとなっています。
同じ悩みを持った若者が集まる場所
もう1つ、似たような活動をしている団体「Ventilen」があります。Ventilenとは「1人ひとりにとっての友人」という意味。
この団体の発足は1999年。電話相談で働いていた2人のボランティアが、あることに気づいたことがきっかけだそう。
それは、電話をかけてくる人の中には、寂しくて友人が欲しい人が多いということ。そこで、2人はサポートグループを開始。やがて活動にゲームを取り入れていったそうです。
Ventilenは、若者の孤独感を軽減することを目的とし、主な活動やイベントは「集いの場(Mødesteder)」「コムサメン(KOMsammen)」「グループコース(Gruppeforløb)」の3種類。
これらは共通して、さまざまな活動に若者を集めることで、彼らが交流し、孤独感を和らげる機会を提供することを目指しています。
特にコムサメンは、運動や料理など共同体で行う活動に焦点を当てることで、参加者がより健康的なライフスタイルに触れるきっかけとなることも意図しています。
プログラムの対象年齢はそれぞれ異なり、集いの場は15歳から25歳、コムサメンとグループコースは15歳から30歳までを対象としています。
2023年のデータによると、同団体に参加した若者は758人で、そのうち448人が初めての訪問者でした。訪問者の平均年齢は22.5歳で、男女比率は55.5%が男性、41.1%が女性(3.4%は無回答)となっています。
アンケートでは、75.4%が参加後に以前ほど孤独を感じなくなったと回答。そのほかにも、74.5%が自己肯定感が高まった、67%が社会的な状況への対応力がついたと答えています。
メンタルヘルス問題を語る場所ではない

どちらの活動も、「医療」や「治療」と呼ばれるものではなく、同じ悩みを抱える人たちと出会う場を提供し、一緒に活動することで絆が生まれるというものです。
なんだかミートアップのようでもありますが、特定の目的や興味を共有する人たちが任意で集まるミートアップと違うのは、その目的や興味が重視されるのではなく、集まる環境に重きが置かれている点だと感じました。
Ventilenに参加する人たちは、性別、年齢、社会人か学生かどうかの情報は登録しますが、名前は登録不要とプライバシーが優先されます。
ボランティアコーディネーターのジュリーさんは、「(Ventilenは参加者にとって)安心できる空間なのです」と語ります。匿名で参加できることで、お互い近すぎず遠すぎずのほどよい距離が保てるのです。
医者のようなメンタルヘルスの専門家ではないけれど訓練されたボランティアがいて、参加者が安心して参加できる点が、デンマークの試みの大きなポイントだと思います。
Ventilenはメンタルヘルス問題を語る場ではないため、初めて参加する人はまずボランティアに会い、グループに参加するのが適切かどうかをチェックされるそうです。
この点も、人とは出会いたいけれど自分のメンタルヘルスについては語りたくない参加者が安心できるポイントなのでしょう。
「人との交流」は総合的なアプローチに欠かせない
さらに、メンタルヘルスのために食生活を見直すのも1つの方法。そして、一緒に料理をして食べる人がいたらもっと良いようです。
Ventilenの集まりでは、食材の買い出しからはじまり、料理も食事もみんなで一緒にすることも。そして、それが参加者の絆をつくるのに一役買っています。なんだか家庭科の調理実習を思い出してしまいました。
「NPR」の記事では、専門家は食事だけではなく運動や心理面のケア、薬、睡眠などを含めた総合的なアプローチが大事だと述べています。
メンタルヘルスに悩む人がいたら、ただ寄り添って何かを一緒にしてみてはどうでしょう。
同じ悩みを持つ人たちがメンタルヘルスを語るためではなく、ただ一緒にゲームをしたり、ヘルシーな食事をともにする機会があることは、その総合的なアプローチには欠かせない要素のようです。
誰だって気分のアップダウンはあります。しかし、うつなどの症状を抱える人やその家族・友人にとって、デンマークのようなリソースの存在は大きいと思いました。
──2019年11月1日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
執筆: ぬえよしこ
Source: Quartz, World Economic Forum, Ventilen, NPR
Reference: 日本ビタミン学会
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