金融市場が混乱の極みにあった4月、ロンドンのあるファンドマネージャーが、不要な債券を手放す比較的簡単で低コストの方法を見つけた。クレジットトレーダーの手法を参考に、英金融大手リーガル・アンド・ジェネラル(L&G)はさまざまな英国債をまとめ、国債のポートフォリオ取引として売却した。
ポートフォリオ取引とは複数の債券を束ねたバスケットを一括で取引してしまう手法で、不要な債券を人気の高い債券と組み合わせることによって、流動性が低かった社債市場を一変させた。ただ、すでに電子取引が普及し、頻繁に売買されている国債市場にとって、ポートフォリオ取引がもたらす利点はそれほど多くないと考えられてきた。
しかし、英国債がとりわけ大きく売られた4月の世界的な国債急落で話は変わった。
「効率面から理にかなう部分が多いため、当社は積極的に進めた」と、ポートフォリオ取引についてL&Gのトレーディング部門責任者、エド・ウィックス氏は説明。「ポートフォリオ取引の利用は当社の社債トレーダーの間で非常に活発だったため、(国債の取引でも)活用の余地があると感じた」と語った。
ウィックス氏とそのチームは3月末から4月にかけ、償還期限や流動性の異なる5から10本の証券を組み合わせ、ポートフォリオ取引を実施。取引を仲介したトレードウェブ・マーケッツによると、欧州の国債がまとめられたポートフォリオ取引はこれが初めてだった。
米国と英国は8日、関税障壁を引き下げる枠組みで合意し、関税による脅威は後退した。それでも、英国債市場のボラティリティーは依然高い。このため、割安なコストで市場への大きな影響を避けつつ大量の国債を処分する方法として、ポートフォリオ取引にはシュローダーなどの資産運用者が注目を続けている。

金利見通しの変化に合わせてポートフォリオのデュレーションを調整する必要がある運用者にとっても、ポートフォリオ取引の魅力は大きい。
とはいえ、国債のポートフォリオ取引が社債市場に匹敵する規模にまで成長するとの見方はまだ少ない。社債市場のポートフォリオ取引の規模は、今や1兆ドル(約145兆円)を超えている。
取引プラットフォームを運営するトレードウェブの広報担当者によると、欧州国債や英国債が絡むポートフォリオ取引に現在流動性を提供しているのはシティグループともう1社しかなく、3-4社が今後見込まれているに過ぎない。
社債向けポートフォリオ取引の技術的プラットフォームは既に多くで整備されているが、国債向けではまだしばらく時間がかかる可能性が高い。
シュローダーの債券トレーダー、ジョージ・ジョーンズ氏は「どの社がその機能を有しているか、主要銀行の相手と連絡を続けている」と明かした。「英国債について当社の大規模な年金負債対応投資(LDI)戦略を執行する上で、極めて有用な進歩だ」と述べた。
LDI投資ファンドは2022年、当時のトラス英首相が引き起こした英国債危機で注目を浴びた。LDI戦略は資産の換金ができずマージンコール(追加の担保・保証金請求)に応じられなくなり、イングランド銀行(英中央銀行)が650億ポンド(現在のレートで約12兆6000億円)を投じて長期国債を買い入れる緊急の市場介入に踏み切った。

ブルームバーグ・ニュースの親会社であるブルームバーグLPは、債券取引サービスの提供でトレードウェブ、MTSボンドビジョン、マーケットアクセス・ホールディングスと競合関係にある。
複数の欧州国債を一括して取引することは以前から可能だったが、1日の終わりに限られ、取引時間中に執行することはできなかった。
バークレイズのテーマ別債券調査責任者のゾルニツァ・トドロバ氏は「ポートフォリオ取引が欧州国債市場で一般的になることはないと懐疑的な見方をする人は言うかもしれない」と述べつつ、「特にボラティリティーが激しい局面で、1日のうちいつでも1回の取引で一括して執行され、流動性が得られるというのは重要だ」と指摘した。
原題:Beloved on Credit Desks, Portfolio Trades Come to Sovereign Debt(抜粋)
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