お互いの気持ちを知り、円滑なコミュニケーションを行う上で「表情」は大切です。
しかし、「顔が怖い」「無表情だ」と言われる人もいて、本当の気持ちが正しく伝わらない場面も多くあるのではないでしょうか。
こんな問題にアプローチするデバイスが開発されました。
アメリカ・ペンシルベニア州立大学(The Pennsylvania State University)の研究チームが、「本当の気持ち」を読み取るステッカー型センサーを開発したのです。
研究の詳細は、2025年3月24日付の『Nano Letters』誌に掲載されています。
目次
- 無表情に見える人の「感情」を検出するステッカー型センサー
- 「本当の気持ち」を約90%の精度で識別
無表情に見える人の「感情」を検出するステッカー型センサー
「この人、何を考えてるんだろう?」と思ったことはありませんか?
逆に、そんな風に思われていて、「コミュニケーションがなかなか上手くいかない」なんてこともあるかもしれません。
そんな時は、「本当の気持ちが伝わればいいのに」なんて感じることでしょう。
ペンシルベニア州立大学はそんな技術の開発に取り組みました。
今回開発された小さなステッカー型センサーは、皮膚の上に貼ることで、表情をつくる皮膚の歪みの違いを検出できます。

さらに、体温、発汗による湿度、心拍数、血中酸素濃度といった、感情に連動する生理的反応も同時に追跡します。
それらのデータを集める複数のセンサーは、互いに干渉しないように設置され、小さなステッカーの中にまとめられています。
また研究チームは、収集したデータからその人の正しい感情を見極めるためにAIモデルを訓練し、「演技」と「本当の気持ち」の違い理解することを目指しました。
そのためにも計11人の成人ボランティアを用い、喜び、驚き、恐怖、悲しみ、怒り、嫌悪という6つの感情を演じてもらいました。
参加者はそれぞれの感情表現を100回の繰り返し、それらのデータを使ってAIモデルの訓練を実施。
結果として92.8%の高精度で表情を分類することができました。
続いて研究チームは、「本当の気持ち」の正確な把握に取り組みました。
「本当の気持ち」を約90%の精度で識別
研究チームは、特定の感情を呼び起こすよう設計されたビデオクリップを作成。
それらを最初と同じ参加者に視聴してもらい、デバイスが本当の気持ちを識別できるか調べました。
その結果、デバイスは、驚きや怒りの際に生じる体温や心拍数の上昇などを検知。
88.83%の精度でそれぞれの感情を正確に識別できることが分かりました。

つまりこのデバイスは、単に表情だけでなく、表情と本当の気持ちの差も把握することができるのです。
従来のカメラを用いた顔表認識デバイスは、表情でしかその人の気持ちを判断できません。
しかし今回開発された技術は、直接「内側の変化」を捕らえるため、外見ではわかりにくい心情もしっかり読み取れるようになります。
研究チームも「目に見える表情や言葉では分からない素直な感情反応を発見する道具になりえる」と述べています。
このデバイスは、私たちの日常的なコミュニケーションに利用できるだけでなく、精神的な健康に悩んでいる人や、そうした人々をケアする人を助けるものとなるでしょう。
話すことや感情表現が苦手な人、自分や他人をもっと理解したい人など、多くの人がこの技術を用いて円滑なコミュニケーションを行えるようになるのです。
参考文献
Emotion-assessing wearable is like a mood ring for the face
https://newatlas.com/medical-devices/emotion-assessing-facial-sticker/
High-tech sticker can identify real human emotions
https://www.psu.edu/news/research/story/high-tech-sticker-can-identify-real-human-emotions
元論文
Stretchable, Rechargeable, Multimodal Hybrid Electronics for Decoupled Sensing toward Emotion Detection
https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.4c06392
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部