メイリオが消えた
メイリオというフォントが好きだった。プリントアウトはともかく、ディスプレイ上に表示して読み書きするのにはちょうどいい感じで長い間愛用してきた。もう文書を印刷することなどまずないので明朝系のフォントを使うことはほとんどなくなっている。
メイリオはWindows Vista以降のWindowsに標準搭載されている和文ゴシック体フォントだ。視認性で評判の悪かったMS UI Gothicに代わって使われてきた。開発にあたって参考にされたのは欧文フォントとして先行していたVerdanaだ。このフォントもマイクロソフトが開発したもので、ディスプレイ表示での視認性向上のために開発された。
メイリオでは日本語文字は等幅、英数字はプロポーショナルとなっていて、漢字かな欧文交じりのテキストの可読性を高めることができる。「明瞭」がそのフォント名の語源になっているのは想像に難くない。とにかくかつてのMS Pゴシックに比べて格段に洗練されていると当時は思ったものだ。
Windows 7ではMeiryo UIというフォントが追加された。このフォントはOfficeアプリでおなじみのリボンのグラフィカルユーザーインターフェイスで使われている。だが、カタカナの字面印象がどうしても「半角カナ」を想像させる気がしてあまり好きにはなれない。
今週、4月9日(水)、もしかしたら4月10日(木)だったかもしれないが、朝起きてPCに向かうとWindows OSが再起動していた。第2水曜日だ。Windows Updateによる月例のアップデートの行なわれる日だ。特に気にすることなくブラウザを開いて朝のニュースを読んだり、SNSに目を通したりしていたのだが、Google検索でキーワードを入れて検索結果が表示されたときにフォントが変わっていることに気がついた。
愛用のブラウザはGoogle Chromeだ。フォントの設定を確認するために[設定]-[デザイン]-[フォントをカスタマイズ]を見ると、標準フォントとSerifフォントがNoto Sans JPに、Sans SerifフォントがNoto Serif JPに変更されていた。
Serifは文字の線の端っこにある装飾を指す。それがないのがSan Serif、Sanはフランス語で「ない」という意味で英語の「without」のことだ。簡単に言えば明朝体のような横棒の右端に▲がつかない。つまりゴシック体ということだ。
念のためにWindows標準のブラウザであるEdgeの表示設定を確認してみた。こちらは[設定]-[外観]-[フォント]-[フォントのカスタマイズ]だ。同じエンジンなのに、こんなメニューの階層をなぜ違うものにする……などと、つっこみながら確認すると、やっぱり同じように、標準フォントとサンセリフフォントがNoto Sans JPに、セリフフォントがNoto Serif JPに変わっていた。
これらはもともとChromeでもEdgeでも、MeiryoとYu Minchoだった。
Notoシリーズに乗り換え
いろいろ調べてみると、Windows UpdateがNotoシリーズフォントを配布したからのようだということが分かった。
NotoシリーズのフォントはAdobeとGoogleの共同開発によるもので、Adobeからは源ノ角ゴシックと源ノ明朝、GoogleからはNoto Sans JP、Noto Serif JPという名称でリリースされているオープンフォントライセンスのフォントだ。Androidのデフォルト日本語書体としても知られている。
豆腐、つまり、いわゆる文字化けで表示できない文字がないことを目指し、no tofuからネーミングされたNotoシリーズフォントは、2014年の発表後、11年が経った今、多くの画面で目にするようになっている。こうしたフォントを作ろうと、Adobeに共同開発を持ちかけたのはGoogleだったようだが、そのころのAdobeはすでにそんな書体の開発に取り組んでいたそうだ。こうしてPan-CJK(中国語、日本語、韓国語)で共用できる書体ができあがったのだ。
今回の突然のフォント変更で、いろいろ考えた。以前と同じようにメイリオフォントに戻すのは簡単だ。だが、こういう強引な方法で、フォント設定を変更した様子から、そのうち、WindowsのシステムフォントがNoto Sansになることだって十分に考えられる。
Adobeは、源ノゴシックと源ノ明朝をすでにバリアブルフォントとして提供しているし、そのGoogle版も公開されている。WindowsのシステムフォントがいつNotoシリーズに変わってもおかしくない予感がする。
だったらと、変わったフォント設定をメイリオに戻すのではなく、今までメイリオを指定してきた各アプリの設定をNotoシリーズに変更することにした。
具体的にはOutlookのメールにおけるひな形で使うフォントやビュー内でのフォント(email.dotで設定)、Wordの標準スタイルで使うフォント(normal.dotで設定)、秀丸のフォントを変えた。ブラウザはすでに勝手に変わっているので、これらを変更した結果、日常的に目にする文字列のほとんどはNotoシリーズフォントになった。
メイリオは、文字の上下のスペースが広く、行間を指定するときにいろいろとやっかいなことが起こることもあり、使いにくい面もあったが、Notoシリーズならその心配もない。また、メイリオにはイタリックがなくてちょっとした不便を感じていたがNotoシリーズにはある。
とにかくしばらくはこれでやってみようと思う。設定済みの環境を、複数台のPCに同期させることができればと思うのだが、今のところは個別に対応するしかなさそうだ。
美しい画面なら仕事もはかどる
メイリオに比べてNotoシリーズのデフォルトウェイトはちょっとフォントが肉厚だ。視認性が高いように感じる。冒頭の写真はWordの編集画面を並べたデスクトップだ。左がNoto Sans JP、右がメイリオだ。特に、ノートPCの小さな画面では表示がいい感じで目がラクだ。
また、一部のUIからみると、Thin、Light、DemiLight、Regular、Medium、Bold、Blackという7種類のウェイトを使い分けることができて利便性も高い。
フォントが変わるだけで、Windowsデスクトップから受ける印象はずいぶん違うものになる。Windowsを使うようになったのは、バージョン3.0の時代からだが、当時と比べれば、本当にWindowsの画面は美しくなった。あとはUIに使うフォントに手を入れて、アプリを使っていて気持ちのいいものにしてほしい。ここまでくるのに30年かと思うと感慨深い。
それでも、突然何の説明もなくフォント設定を変えるというのはちょっと乱暴すぎるんじゃないか…。