土曜日, 6月 7, 2025
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『新世紀ロマンティクス』ジャ・ジャンクー~カメラは時間を記録し続ける~ヒデヨシ(Yasuo Kunisada 国貞泰生)

🧠 あらすじと概要:

映画『新世紀ロマンティクス』あらすじ

『新世紀ロマンティクス』は、中国の映像作家ジャ・ジャンクーが22年間にわたって撮りためた映像を元に、変化し続ける中国社会と、二人の主人公、チャオ・タオとリー・チュウビンとの関係を描いた叙事詩的な作品です。物語は2001年の大同から始まり、その後の中国の変遷を通して、二人の人生とすれ違いを描いています。歌とダンスが重要な要素となり、音楽と映像が融合することによって、観客に深い感情を動かします。

記事の要約

記事では、ジャ・ジャンクーの新作『新世紀ロマンティクス』を観た感想が述べられています。初見時は戸惑いを覚えたものの、見直すことで作品の奥深さを理解できたという意見が印象的です。この映画は、激変する中国とその時代の中でのチャオ・タオとリー・チュウビンの物語を通して、ドキュメンタリー的フィクションの新しい形を表現しています。

映画は、歌とダンスが主なテーマであり、時代の移り変わりを感じさせる映像が続きます。街の発展や個々の人生の変化が描かれ、特に2022年には新たな現実—コロナ禍やAIの存在—も組み込まれています。記事の最後では、主人公たちがそれぞれの道を選び、強い意志で前進していく様子が感動的に描写されており、彼らの生きる強さが観客に強く伝わります。

『新世紀ロマンティクス』ジャ・ジャンクー~カメラは時間を記録し続ける~ヒデヨシ(Yasuo Kunisada 国貞泰生)

(C)2024 X stream Pictures All rights reservedジャ・ジャンクーの新作を観られると思って楽しみに映画館に駆けつけ、なんの予備知識もないまま見始めると、なんなんだ?これは?と戸惑う。人々や街の様々な映像と過去作の抜粋や撮影したが使わなかった映像がつなぎ合わされており、ほとんど物語らしい物語はない。チャオ・タオは一言も喋らないのだ。ジャ・ジャンクーが22年かけて撮りためた映像で、中国の時代の変化とチャオ・タオとリー・チュウビンの変化をカメラが記録してきた叙事詩的な映画になっている。コロナ禍の映像や2022年現代のAIロボットが登場する新撮ももちろんあるのだが、ただ途中で何回か眠くなり、詳細を覚えていなかった。これではレビューは書けないと思い、もう一度映画館で見直した。

全体像が分かって見直すと面白かった。これは新世紀になって激動し変わり続ける中国の22年という時間を切り取ったドキュメンタリーであり、歌とダンスで綴った時代変遷ミュージックビデオでもあり、チャオ・タオとリー・チュービンの22年間にわたるすれ違いドラマをカメラが記録し続けたドキュメンタリー的フィクションでもある。

2001年、21世紀を迎えたばかりの中国北部は山西省の大同(ダートン)が最初の舞台だ。男がスパナを手に持って野原を見つめている。近くで野火が燃えている。「野火が焼けても尽きることはなく、新しい芽は出てくる・・・」と歌は叫び、激しいロックの音楽で始まる。そしてどこかの室内で中国の女性たちがみんなで好きな歌を歌って楽しんでいる。まるでドキュメンタリーのような映像がしばらく続き、中国のWTO(世界貿易機関)加盟のニュースが流れ、炭鉱の街の労働者たちの顔・顔・顔が映し出される。クラブやスナックのような場所で踊り、歌う若者たちの熱狂。毛沢東のかつて肖像画が飾られていた人民ホールのような場所でも、女たちは歌い、炭鉱で働かなくなった高齢者たちが投げ銭をする。チャオ・タオもダンスをする。そして気丈にバイクのチンピラたちに石を投げつけ、部屋の中で飛ぶハエを叩き潰す。2008年の夏季オリンピックが北京に決まったという希望に満ちた人々の行進の映像も出てくる。キャンペーンガールの仕事をしているチャオ(チャオ・タオ)とマネージャーのビン(リー・チュウビン)は恋人同士として暮らしていたが、二人の諍いもあって、ビンは他の街で一旗揚げようとメールを残して、チャオ・タオの元を去っていく。チャオ・タオは北京オリンピック協賛の酒メーカーのキャンペーンガールとして街やイベントで踊り続ける。

歌とダンス!ジャ・ジャンクーの映画は、歌とダンスがほとんどすべての映画で重要な要素になっている。思えば『山河ノスタルジア』(2015)でも20世紀最後の年1999年の新年を迎えるダンスから始まった。ヴィレッジ・ピープルの有名なヒット曲 「ゴー・ウエスト」に乗せて、チャオ・タオを先頭にみんなで楽しそうに踊っているオープニングだった。『青い稲妻』(2002)は、まさに大同(ダートン)が舞台であり、チャオ・タオは蝶を体現した奔放な女性であり、ダンスで客を惹きつけていた。バスから出してもらえず、何度も座らされては立ち上がるリー・チュウビンの暴力に屈しないチャオ・タオの強烈な意志が感じられるシーンがこの映画でも使われており、そんな勝気な若きチャオ・タオが初々しい。

この映画は、2001年の大同に続いて2006年の重慶市奉節(フォンジエ)、2022年の広東省珠海(チューハイ)、そして大同と時代と場所が移っていく。それと同時に、チャオ・タオとリー・チュウビンも歳を重ねていく。2006年の奉節(フォンジエ)は、三峡ダムの建設で水底に沈む運命にある長江沿いの街であり、『長江哀歌』(2006)の舞台となっていた。そのとき撮影したと思われるシーンがこの映画で使われている。チャオ・タオは夫リー・チュウビンを探すという『長江哀歌』の物語が、そのままこの映画と重なっている。美しい大河とそれを渡っていく船。チャオ・タオは一人で食事をするシーンがずっと続く。大同で踊っていたのに比べると、ペットボトルの水を持ち歩き、一人で食事をし、リー・チュウビンを探し街を彷徨い続けるチャオ・タオは哀しげだ。雨宿りを一緒になった占い師に、「あなたに少し力をあげましょう」と言われる。ビルを壊し続ける労働者たち。水底に街を沈めてダムにしてしまうという国家プロジェクトが進み、変わりつつある中国の中で、移住を迫られ、街を去って行く人々の姿がここでもドキュメンタリーのように映し出されている。「ロボットの利点は悲しまないこと」というAIロボットの映像も食堂で流れる。リー・チュウビンは付き合っていた女に金を渡してどこかに行かせる。『帰れない二人』(2018)でも、チャオ・タオはリー・チュウビンを追いかけて、大同から三峡ダムに沈む街奉節(フォンジエ)にやって来ていた。あの映画でもリー・チュウビンには別の女がいた。チャオ・タオは行方不明者探しの放送でリー・チュウビンを呼び出す。そして「もう私たち終わったの?」と聞き、「私、決めたわ」と言って去って行くのだ。

リー・チュウビンはすっかり老けて足が不自由になっていた。2022年、仕事仲間だったパンを訪ねて珠海(チューハイ)へ行く。カタールでのワールドカップ・サッカーのニュースがラジオから流れる。コロナ禍で人々がマスクをし、街を消毒する。病院に入院したいたパンの見舞いにも行けず、ネット画面で会話するだけ。誰もがスマホやタブレットを手放さず、Tiktokでオジサンが踊り人気者になったりしているが、リー・チュウビンにはそんな世界はついて行けない。コロナ禍で社交ダンスもパートナーがいない中で一人で踊ったりもしていた。

炭鉱の街だった大同は、すっかりビルが建ち並ぶ近代的な都市になっていた。リー・チュウビンは、大同に戻ってきて、偶然スーパーのレジで働くチャオ・タオと再会する。驚くチャオ・タオにマスクを取って自分だと告げる。ロッカー室でマスクを取ったチャオ・タオの顔には、くっきりとマスクの跡がついており、歳を重ねた肌の衰えが感じられる。チャオ・タオはスーパーの帰りにAIロボットの前に立ち塞がり、話かけられる。そして「表情が読み取れません」と言われ、マスクを取ると「悲しそうに見えます」と言われるのだ。「マーク・トウェインは言いました。人類は一つの有効な武器を持っている。それは“笑い”だと」とロボットが話し、チャオ・タオも笑う。音楽のステージを二人で眺めたあと、リー・チュウビンはチャオ・タオに「仕事をあちこちで探したが見つからなくて、この街に戻ってきた」と告げる。ラスト、スーパーの袋をリー・チュウビンに渡し、チャオ・タオは蛍光ライトを腕に巻いて、走り出す。自らの足で。それを見送るリー・チュウビン。街を走る多くのランナーたちと一緒に走るチャオ・タオの姿はなぜか感動的だ。変わりゆく中国の中で、自らの足で走ることに強い意志を感じるのだ。

冒頭とラストに出てくる大同(ダートン)の宇宙飛行士の少年のような石像は未来を夢見ていたのか?そして急激な経済発展を遂げた中国はその夢のような未来を実現しているのだろうか。炭鉱労働者はいなくなり、ダムの底に街は沈み、百万を越える人々が移住を余儀なくされた。そしてコロナウィルスは蔓延し、ネット社会が普及し、AIロボットも生まれた。そんな急激な変化の中で、仕事を求めて移動するリー・チュウビンと、彼を探して彷徨いつつ、故郷の街で生き続けることを選んだチャオ・タオの強い意志。チャオ・タオが一人で食べるシーンがやたら多く描かれていたが、それは生きようとする強い意思でもあるのだろう。そしてかつてのダンスから走ることへと身体運動は変化したが、彼女は確実に前を向いて進んでいるのだ。

2024年製作/111分/G/中国原題または英題:風流一代 Caught by the Tides配給:ビターズ・エンド監督:ジャ・ジャンクー製作:キャスパー・リャン・ジアヤン、市山尚三製作総指揮:ジャ・ジャンクー、タン・ヤン ドン・ピン、チュウ・ウェイチエ脚本:ジャ・ジャンクー、ワン・ジアファン撮影:ユー・リクウァイ、エリック・ゴーティエ美術:ヨウ・シューシェン、リュウ・チァン、リュウ・ウェイシン、リャン・チントン編集:ヤン・チャオ、リン・シュウドン、マチュー・ラクラウ

音楽:リン・チャン

キャスト:チャオ・タオ、リー・チュウビン、パン・ジアンリン、ラン・チョウ、チョウ・ヨウ、シンガーレン・クー、マオ・タオ



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