🧠 あらすじと概要:
あらすじ
『コンクリート・ジャングル』は、ジョセフ・ロージー監督による1960年の作品で、イギリスの刑務所を舞台にしたクライムドラマです。物語は、出所したばかりの囚人ジャニー・バニヨンが再び犯罪の世界に巻き込まれ、仲間や看守たちとの織りなす暴力や裏切りの中で生き残りをかけて闘う姿を描いています。刑務所内の集団的な同調圧力と暴力に直面しながら、ジャニーは自身の計画や人間関係を維持しようと奮闘します。最終的に、彼は金を掘り起こすことを試みるが、それに伴う惨劇が待ち受けています。
記事の要約
『コンクリート・ジャングル』についての感想文では、集団による同調する暴力と個人の対峙がテーマとして語られています。映画の導入部分では、囚人たちのケリーへの暴力が効果的に描かれ、群衆の中での同調の怖さが強調されます。一転して、出所祝いのパーティーが描かれ、ジャニーの過去や人間関係の緊張が浮き彫りになります。彼の強奪計画が進行する中で、信頼を失った仲間との間には裏切りが生じ、ジャニーは再び刑務所生活に戻る運命を辿ります。映像美やカメラワークも評価され、ジョセフ・ロージー監督の演出が光る作品となっています。映画は、組織や集団が持つ暴力に抗う個人の悲劇を描いており、そのテーマは現代的な視点でも共鳴します。
ジョセフ・ロージーの1960年の作品。アメリカ出身の映画監督ジョセフ・ロージーは学生時代から演劇に傾倒。アメリカ亡命時代のブレヒトとも親交があった。のちにブレヒトの戯曲・脚本で『ガリレイの生涯』(1974・アメリカ)を映画化した。記録映画、ラジオドラマなどを経て、43年にMGMと監督の契約を結ぶ。48年にRKOの『緑色の髪の少年』で長編劇映画の監督デビュー。53年の『拳銃を売る男』の完成後、赤狩りにひっかかりイギリスへ亡命。以後イギリス、あるいはフランス等で作品を作り続けた。 この『コンクリート・ジャングル』はイギリスでの初期の作品で、イギリス公開時の原題は『The Criminal(犯罪者たち)』だった。
刑務所&犯罪ギャング映画である。集団的な同調による暴力が描かれる。最初、刑務所に「ケリーが戻って来る」と一人の職員がヒョコヒョコ移動しながら囚人たちに囁いて回り、それを移動撮影とクレーンショットで追いかける。やがて刑務所内の囚人たちが一斉に物音をた立て、「怒れ、犬に骨をやれ」と囃し立てる。その物音のさ中で監房内でのケリーへの暴力が描かれる。何らかの裏切り者への復讐なのであろうが、看守長も暗黙の了解をしているらしい。刑務所内の移動撮影と囚人たちのアップや部屋の覗き窓などを使いながら、巧みなカット割りでテンポよく描かれる見事な導入である。おそらくセットで作られた刑務所施設は、3階建ての吹き抜けと階段を効果的に使い、各監房の囚人たちが同調する様子を描いていく。このケリーへの暴力と同時にジャニー・バニヨン(スタンリー・ベイカー)という囚人仲間のボス的な男が三年の刑を終えて出所する。
そして男たちの刑務所の世界から一転、派手な女たちが部屋に集まるジャニーの出所祝いのパーティーに場面は転換する。女たちは酒の酔い、ドレスで男と踊り、抱き合い、ふざけ合う。仲間のマイク(サム・ワナメイカー)がジャニーのかつての情婦マギー(ジル・ベネット)の来訪を告げる。するとジャニーが突然怒り出してパーティーはお開き。二人の間に何があったのかはよく分からないが、刑務所に入っている間にマギーの裏切りがあったのだろう。そしてジャニーはスーザン(マルギット・サード)という新しい女を手に入れる。このへんのパーティーの演出、スーザンとの出会いなども洒落ていて面白い。
ジャニーは刑務所にいたときから4万ポンドの掠奪計画を練っていた。競馬場の売上金を強奪する計画だ。この競馬場の売上金強奪は、『現金に体を張れ』(1956/スタンリー・キューブリック)と同じだ。ただ、この競馬場の売上金強奪の描写はあっさりしたもので、すぐに成功し、ジャニーは強奪した金を雪もある畑の真ん中に一人で埋める。畑のロングショットの俯瞰。だが別れた女マギーと誰かの密告で、ジャニーはすぐ警察に捕まってしまう。あっという間に刑務所に逆戻りするジャニー。
刑務所の外にいる仲間が一様にジャニーが隠した金を狙っているらしい。仲間のマイク(サム・ワナメイカー)がジャニーの勢力を押えにかかっているということも耳に入ってきた。面会に来たスーザンは「愛している」と言いながら、マイクと連絡を取っているようだ。牢名主サフロン(グレゴワール・アスラン)からマイクはスーザンを田舎に連れて行ったと聞く。そんなとき、囚人の一人が看守と揉めて、階段の上から転落する事件が起きる。吹き抜けになっている3階から1階への転落と囚人たちが近づく見事な真上からの俯瞰ショット。そして囚人たちの暴動が起きる。火が燃やされ、手拍子にダンス。祝祭のような刑務所。囚人たちの騒ぎは収まらない。その暴動の最中にジャニーが看守を手引きしたと囃し立てられ、ジャニーは囚人たちに目の敵にされる。すべて牢名主のサフロンの策略であり、看守長もグルだったようだ。かつて信頼されていた男が、簡単に裏切り者に転落する様は、現代のSNSネット社会のようだ。集団の同調圧力の怖さ。刑務所内の広場でぐるぐると歩き回る囚人たちの俯瞰ショット。ジャニーが連れて行かれる姿に囚人たちの冷たい目。看守長の計らいでジャニーは別の刑務所に移送されることになるが、4万ポンドの金と引き換えの条件でマイクたちが護送車を襲う。そしてジャニーを船に乗せ、金をありかを教えれば、ジャニーにパスポートと飛行券を渡し、逃がしてやると言うのだ。ジャニーは、酒を吹きかけた一瞬の隙をついてスーザンと逃亡。金が埋めてある畑に辿りつくのだが、マイクは撃たれて死んでしまう。金をどこに埋めたかわからないまま、マイクたちが畑を手当たり次第に掘り起こす・・・。
刑務所内の同調圧力による集団の暴力。これには看守側も加担しており、組織的な暴力だ。そしてギャングたちの間でも集団と個人が対峙する。一度火がついたら集団の暴力は止められない。裏切り者というレッテルを貼られれば、集団の中では生きていけない。組織、集団、システムとしての力=暴力と対峙する個人という図式は、フリッツ・ラングもクリント・イーストウッドも多くの映画監督たちが描いてきた。
音楽として流れるジャズがカッコいい。『召使』でも、『エヴァの匂い』でもセットを使った美術や巧みなカメラワークや人の動かしの演出が見事だったが、演劇畑出身のジョセフ・ロージーは室内のセットでの撮影・演出が巧みだ。この映画は刑務所内の階段を使った上下の運動とロケによる船と車と走りの逃走劇の横への運動がそれぞれ描かれていて面白い。畑の中で一人果てるスタンリー・ベイカーのロングショットもカッコいい。
1960年製作/イギリス原題または英題:The Criminal/Concrete Jungle配給:日本ヘラルド映画監督:ジョセフ・ロージー脚本:アラン・オウェン製作:ジャック・グリーンウッド撮影:ロバート・クラスカー歌:クレオ・レイン編集:レジナルド・ミルス作曲・指揮:ジョン・ダンクワースキャスト:スタンリー・ベイカー、Mike Carterサム・ワナメイカー、マルギット・サード、ジル・ベネット、グレゴワール・アスラン、パトリック・マギー
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